−CROSS MIND−


夢を見た。


行くはずだった退屈な集まりを抜け出し、
ブラブラと街を歩いてみる。


都会のとある百貨店内。
ベンチに居座りくつろいでみる。
旧友との偶然の再会。
しばらく会わぬ間に家庭をもち、もうすぐ子どもが
生まれるらしい。
どこか幸せそうだ。
勤めていた頃は、こんな表情あまりしなかったっけ。

複雑なおもいのまま、
地下へとエスカレーターで降りていく。


通りすがりの客にマイクを勧める黒ぶちメガネのお兄さん。
どうやらブックショップの店員らしい。
満足げに歌い終えた主婦の次に歌う人はいない。
流れ出す次の曲の伴奏。
自ら歌いだす店員。
どこか楽しそうだ。
知っている曲なのにカバーの域を超えたうまさ。
メロディーを少し変調してのびのびと歌っている。
マイク片手に歌いながら雑誌を棚に並べている。
主婦が鼻歌まじりに家事をこなしているかのようだ。
おもわず立ち読みを装い聞き入る俺。


いきなり3枚のパネルをもってあらわれた男たち。
何時の間にか歌い終えた男性もそのうちの1枚を運んでいる。
本屋の周囲がパネルに囲まれ、特設スタジオに!?
パネル内にバンドメンバーとともに一人取り残された俺。
あわてて外へと飛び出す。
もう既に前奏がはじまっている。
立ち見の観客に混じり、最後列で様子をうかがう。
ボーカルにギターとベースが加わりなかなかいいかんじだ。
人が少しずつ集まってくる。
聞き入る観客。


アクシデント発生!!
ただでさえパネルを隔てているのに、唯一の音源_マイクの
電源トラブル!
急に音が小さくなった。
ざわつく聴衆。
たじろくバンドメンバー。
一瞬演奏がやみそうになる。
懸命にも気を取り直し、地声を張り上げるボーカル。
だが、焼け石に水
聞こえづらいことに変わりはない。


どこかくたびれたかんじの一人の中年男性。
白髪まじりの後姿。
中列で座って聞いていたが、きゅうに叫びだす。

「それぐらいのことで、やめちゃうんなら、もう歌うんじゃねー!」

何度も繰り返して叫んでいる。

会場に警備員はいない。
明らかに危険なタイプ、観客の誰も止めない。
冷たい視線を投げかけるのが精一杯。

バンドメンバー、とりわけボーカルの表情が険しくなってくる。
叫び続ける男の前で、小さな女の子がしきりに何か話しかけている。
どうやら娘らしい。
感極まったのか、いきなり立ち上がり走り去る男性。
その目にはうっすらと涙が。
娘は立ち尽くしている。


騒ぎを聞きつけて集まってきた近くの高校生グループ。
「後を追わねーのかよ」くらいのことをひそひそと話している。
我に返って走り出す少女。
だが、父親の姿は階段上にはもう見えない。
そうこうするうちに、一曲だけのライブも終了。
不完全燃焼なおもいを残したまま立ち去るバンドメンバー。

よく見ると、壁にはツアーのビラが貼ってある。
今日だけであと数ヶ所、都内でこなすらしい。


エスカレーターに向かって帰り出す群集の流れを抜け出し
バンド名を確かめようと踏み留まってみる俺。
回りだすパネル。
読みとることができない。
かろうじて読めた文字__それは「Peace」。
彼らの存在をあらわすシンボルか、あるいは
曲に込められたメッセージだったのかもしれない。


ー完ー